福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)194号 判決
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【判決理由】控訴人主張請求原因一、二、四の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>を綜合すると、控訴人が被控訴人に売渡した自動車代金債権の一部に関し、控訴人主張のとおり、昭和三九年二月二一日付で六二万四、一一七円、同月二六日付で八四万四、七〇六円、同年四月二〇日付で三三三万五、〇〇〇円を、期間を各一年として被控訴人に預託したものとする準消費寄託契約が成立したことを肯定するに足りる。
被控訴人は、右各金員は、前記自動車の売買契約と関連して両当事者間に成立した商品取引委託契約に伴う売買委託証拠金とする趣旨で預託を受けたものであると主張し、控訴人会社の社名代表者名のゴム印及び代表者名下の印影が控訴人会社備付印によるものであることに争いがないから同部分の成立ひいて文書全体の成立が真正なものと推定される控訴人から被控訴人にあてた商品取引の継続的委託に関する昭和三九年二月一九日付の契約書が被控訴人から提出されているほか、控訴人の提出した。預り証にも当該金額を売買委託証拠金として預かつた旨の記載があつて、これら預り証はその体裁から被控訴人会社制規の証拠金預り証用紙によるものと認められる。
しかし<証拠>を綜合すると、
(一) 控訴人が被控訴人に自動車一四台を売込んだ際、被控訴人から控訴人に代金支払の条件として、代金総額から下取り車の価格を控除した残額の半分を手形で支払い残り半分については商品取引委託証拠金として被控訴人に預託することにしてほしい旨の申入があつたが、当時控訴人会社の販売担当課長として折衝に当つた吉崎清磨は、いわゆる商品の清算取引が投機性の強い損失の危険の多いものであることを了知していて、上司の決裁を得た上、控訴人が会社として商品取引に乗出し被控訴人に売買の委託をするということはできないが、代金債権の一部につき支払期を一年後とする趣旨でこれを消費寄託の目的とし一年後に返還を受けるものとすることは差支なく、且つこれを被控訴人の側において売買委託証拠金の受入として内部処理をすることには異存がない、との方針でこれに対処し、結局被控訴人側もこれを諒として、昭和三九年二月から四月にかけて前記自動車一四台の売買契約が成立した経過であること、
そのため控訴人側においては被控訴人側の求めにより、形式上の処理として、乙第一号証の契約書を差入れるとともに甲第二、三、四号証の預り証の交付を受けたものであること、
(二) 尤も被控訴人側においては、右売買契約成立後もなお控訴人に商品取引の委託をさせることを断念せず、取引委託に関する契約書の差入を受け委託証拠金の形で預り証を交付してあるのを足がかりに、控訴人の当時の担当課長吉崎に何度か取引委託の勧誘をしてみたけれども、とりあわれなかつたこと、
ところが間もなく、控訴人側では右吉崎が他の営業所に転出し次いで病気のため数カ月入院するということがあり、被控訴人側ではその頃福岡支店次長の谷口作美が新たに控訴人の関係を担当することとなり、谷口は、あらかじめ同年六月頃から数回控訴人名義で商品の取引をした結果、それが相当の利益をあげたというようなことを示す関係書類を作成した上、同年七月下旬頃控訴人会社の総務課長吉田一義に面会を求めて同人にこれを示し、さきの預り金については当初からの契約で被控訴人会社に運用がまかされていて、すでになした取引ではこのように利益をあげている、利益のあがることはこのとおり確実であるから控訴人側の承認なり指示なりを得てもつと取引の規模を大きくしたい、というような申入をしたこと、
これに対し控訴人会社の吉田総務課長は、いわゆる商品取引については全く知識がなく、前顕甲第二、三、四号証の預り証は控訴人の販売した自動車代金の一部の支払を一年間猶予し被控訴人側の都合でこれをそのような形にしてあるにすぎない旨の申し送りを受けてその頃これを自己の手もとに保管することとなつたもので、右谷口の説明が、すでに控訴人とは関係なく取引をはじめているということでもあり、商品取引制度一般について十分詳細ではなかつたところから、同人の右申入を、被控訴人が控訴人から預託された形になつている証拠金を被控訴人の計算で運用して利益をあげるにつき、単にその取引名義を控訴人にかりることの許諾を求める趣旨にすぎないものと理解し、控訴人側としては進んで取引の差図をするつもりはないから、被控訴人側で然るべく運用されて差支えなく、それについては社長の承諾も得ておくことにしよう、という趣旨の回答をしたこと、
(三) 右吉田総務課長は、その頃自己の理解に従つて右申入及び回答の趣旨を代表者の寺坂勝次に報告し、その諒承を得たもので、爾来被控訴人からは総務課長気付で次々に多数の商品の売付・買付の報告書ないしその手仕舞の計算書が送つて来るようになつたが、これらは被控訴人会社の事務処理上の都合か名義借りに対する儀礼の趣旨で形式的に送付されるものと考えてそのまま放置し、時折被控訴人会社谷口支店次長などから買付、売付の指示を求めるような趣旨の連絡を受けても控訴人側では期限に預けた金額さえ返して貰えばよいから適宜処置されたい旨を以て答えるにとどめ自身が積極的に商品の市況を調べたり被控訴人の外務員の意見を徴するなどして買付、売付の注文をするというような挙にはたえて出なかつたこと、
なお、控訴人の当時の代表者寺坂勝次自身も、その頃谷口から面会を求められ証拠金の運用によつて二〇万円位の利益があがつているので、いま差上げてもよいというような申出を受けたが、自分の方では預けた金を期限に払つて貰えばよいといつてこれをことわつた事実があること、
(四) その後控訴人会社においては、さきの販売担当課長として契約に関与した吉崎が右のように報告書・計算書などが送付されている事実を知つてこれを問題とした等の事情から、これら書類に記載された取引が単に控訴人の名義を用いているだけではなく控訴人の計算において行われているのではないかという疑をもち、同年九月頃、被控訴人側から預け金は預託後一年経過したときは全額返済する旨の念書を差入れて貰おうという方針を定め、吉田総務課長から被控訴人会社谷口支店次長に対しその差入を要求したところ、これを拒否されたばかりか却つて、今取引をやめるならば相当の損失を負担して貰わなければならない、むしろもう暫く取引を続けて損失を取戻した方が双方の利益である、というような返事を得て事の意外に驚き、引続き当初の約束どおり期限に預託金全額を返還するよう交渉を重ねたが果さず、結局本件訴訟を提起するに至つたものであること、を認めるに足り、前掲谷口証人の証言供述中以上認定に反する部分は採用することができない。
そして他に控訴人会社吉田総務課長が被控訴人会社谷口支店次長に対し、商品取引を控訴人会社のため被控訴人に委託し、利益が出たときは控訴人会社の取得とし損失を生じたときは預託金を取崩してその補填にあてるものとして、かかる投機的な売買を開始することを承諾し且つ個々の売付・買付の委託をした事実を肯定すべき証拠は存しない。従つて同課長にそのような取引の権限があつたか否かを問うまでもなく、被控訴人の主張はこれを肯定し得ないものというほかはない。
それゆえ、被控訴人は控訴人に対し本件預け金三口合計四八〇万三、八二三円とこれに対する各預け金につき返還期日の翌日から完済まで年六分の商事遅延損害金の支払義務を負うものというべく、被控訴人主張の弁済供託はその主張自体にてらし債務の本旨に従つた履行の提供を伴う適法なものといえないことが明らかであるから、右義務の履行を求める控訴人の請求は理由があるといわなければならない。(亀川清 蓑田速夫 柴田和夫)